体毛の恒常性維持、生殖、食餌中のリン脂質の消化、神経機能に関するsPLA2-Xの役割
リン脂質代謝酵素ホスホリパーゼA2 (PLA2) には多数の分子種が存在するが、うち約3分の1は細胞外に分泌されるsPLA2 (secreted PLA2) 群に属する。我々が推進するsPLA2遺伝子改変マウスの解析を通じて、各アイソザイムが多彩な生命応答に関わることが明らかとなってきた。本研究では、sPLA2-Xが体毛の恒常性維持、生殖、食餌中のリン脂質の消化、神経機能における新しい機能について紹介する。(1) sPLA2-Xは皮膚において毛包の外根鞘に局在し、毛周期に応じて発現が変動した。Pla2g10-/-マウスの皮膚では体毛遺伝子が部分的に減少しており、超微細形態的に毛包外根鞘細胞の不全が認められた。(2) sPLA2-Xは消化管粘膜に高発現しており、Pla2g10-/-マウスでは消化管でのリン脂質の消化が低下していた。このため、通常食下飼育したPla2g10-/-マウスは野生型マウスと比べて加齢に伴い体脂肪が減少し、痩せる表現型を示した。(3) sPLA2-Xは脊髄後根神経節 (DRG) のA繊維とC繊維に局在していた。Pla2g10-/-マウスより単離したDRGではin vitroでの神経突起伸長が有意に低下した。また、末梢性疼痛モデルである酢酸ライジング試験を行うと、Pla2g10-/-マウスは野生型マウスと比べて疼痛からの回復が早く、この表現型は疼痛性PGの産生とは無関係であった。
sPLA2は従来、「アラキドン酸代謝」「炎症応答」に関する役割が強調されてきた。本研究はsPLA2-Xの「アラキドン酸代謝」「炎症応答」とは無関係の新しい機能、すなわち体毛形成、食物消化、神経応答における役割を明らかにしたものである。これらの研究成果は米国科学雑誌「Journal of Biological Chemistry」誌に二報同時に掲載された。
(1)sPLA2-Xと体毛形成
Yamamoto, K., Taketomi, T., Isogai, Y., Miki, Y., Sato, H., Masuda, S., Nishito, Y., Morioka, K., Ishimoto, Y., Suzuki, N., Yokoya, Y., Hanasaki, K., Ishikawa, Y., Ishii, T., Kobayashi, T., Fukami, K., Ikeda, K., Nakanishi, H., Taguchi, R., and Murakami, M.
Hair follicular expression and function of group X secreted phospholipase A2 in mouse skin.
J. Biol. Chem., 286, 11616-11631, 2011
(2)sPLA2-Xと生殖、食餌中のリン脂質の消化、神経機能
Sato, H., Isogai, Y., Masuda, S., Taketomi, Y., Miki, Y., Kamei, D., Hara, S., Kobayashi, T., Ishikawa, Y., Ishii, T., Ikeda, K., Taguchi, R., Ishimoto, Y., Suzuki, N., Yokota, Y., Hanasaki, K., Suzuki-Yamamoto, T., Yamamoto, K., and Murakami, M.
Physiological roles of group X secreted phospholipase A2 in reproduction, gastrointestinal phospholipid digestion, and neuronal function.
J. Biol. Chem., 286, 11632-11648, 2011