Research_16 of LMMHS

脂質が担う骨の新陳代謝の新しい仕組み:リン脂質による破骨細胞融合機構の発見


 我々は、骨の新陳代謝に関わる細胞である破骨細胞が出来上がる過程で、細胞膜の主要構成成分であるリン脂質が量的・質的に大きく変化することにより、破骨細胞融合を制御していることを初めて明らかにした。本研究成果は、破骨細胞が関与する骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨疾患の診断や治療に役立つことが期待される。

Irie, A., Yamamoto, K., Miki, Y., and Murakami, M.
Phosphatidylethanolamine dynamics are required for osteoclast fusion.
Sci. Rep., 7, 46715, 2017

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1 研究の背景
 体の中で古くなったり傷ついたりした骨は溶かされることにより分解され、さらにその部分に新しい骨が作られることにより絶えず新陳代謝されている。また、骨はカルシウムの大事な貯蔵庫であり、体内でカルシウムが不足すると骨の一部分が溶かされてカルシウムが供給される。これらの骨を溶かす働きを持つのが破骨細胞である。破骨細胞は人間の健康維持に不可欠な細胞だが、一方で、体内で破骨細胞の働きが強くなり過ぎると骨の量が減って骨粗鬆症になってしまう。また、関節リウマチにおいても破骨細胞が活性化されて骨が壊されることが知られている。
 破骨細胞は、骨の血管に存在する骨髄細胞という種類の細胞が未成熟な前駆細胞を経て、成熟した破骨細胞に姿を変えることにより生まれる(骨髄細胞から破骨細胞に変化する現象を破骨細胞の分化と称する)。この破骨細胞分化の最終段階で2つの前駆破骨細胞の細胞膜同士が融合して2つの細胞が合体した1つの新しい細胞になり、融合した前駆細胞はさらに別の前駆細胞と細胞融合を繰り返して巨大な成熟破骨細胞となり、効率よく骨を溶かすことができるようになる。このように、成熟破骨細胞が出来上がるために細胞融合は非常に重要な過程であるにもかかわらず、破骨細胞融合の仕組みはほとんど分かっていなかった。我々は、破骨細胞が融合する仕組みに関する研究を進め、細胞膜を構成するリン脂質が破骨細胞分化融合時に量的・質的に大きく変化することにより、破骨細胞融合を制御していることを明らかにした。


2 研究の概要

細胞融合は2つの細胞の細胞膜が大きく形を変え1つの細胞膜になる現象であることから、我々は細胞膜脂質が量的・質的に大きく変化することが細胞融合の鍵となっているのではないかと予想し、細胞膜の主要な成分であるリン脂質に焦点を当てて研究を進めた。
 研究の結果、破骨細胞が分化融合する際に、リン脂質の一種であるホスファチジルエタノールアミン(PE)の合成が特に増えていることが分かった。細胞膜は外層と内層からなる脂質二重層で構成されており、PEは主に内層に遍在することが知られている。破骨細胞分化過程の初期段階では、細胞膜の外層にほとんど存在していなかったPEは分化するにつれて外層に露出するようになり、特に細胞同士が接触する部分の細胞膜外層に多く存在していた。さらに、PEに特異的に結合する試薬を用いて細胞膜外層上でPEが機能できないようにすると細胞融合が阻害されたことから、細胞膜外層に露出したPEは破骨細胞融合に重要であることが分かった。次に、破骨細胞融合過程においてPEの合成や局在変化を引き起こす分子を探索したところ、PEの生合成酵素の一種であるLPEAT2、ならびにリン脂質を細胞膜内層から外層へ輸送する分子であるABCB4とABCG1が関わっており、これらの3つの分子の発現を人為的に低下させると破骨細胞の融合が妨げられることが分かった。
 本研究から、破骨細胞分化過程において、リン脂質の生合成や局在が変化して破骨細胞の融合が促進されることが明らかになった。この研究は、長年解明されていなかった破骨細胞の分化融合のメカニズムに脂質分子が関与していることを世界で初めて示した研究成果であり、骨の研究分野に新しい学術的理解をもたらすとともに、将来的に骨粗鬆症といった骨関連疾患の治療法の開発に新しい可能性を拓くものである。


3 今後の展望
 今後、この研究成果を足がかりとして、破骨細胞分化融合の仕組みに関する研究がさらに発展することが期待される。また、将来的にLPEAT2、ABCB4やABCG1の機能を制御する薬物を開発できれば、骨粗鬆症や関節リウマチの新しい予防・治療法につながる可能性がある。


Irie_SR.tif

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