Research_15 of LMMHS

セラミドはなぜ肌の健康に重要か?:皮膚のバリア機能に必要不可欠な新しい脂質代謝酵素の発見


 我々は、脂質を代謝する酵素の生理的役割に関する研究を通じて、表皮角化細胞(皮膚の一番外側の細胞)が作り出す特殊な酵素が皮膚のバリア機能に必須の脂質成分であるアシルセラミドの生合成に関わることを初めて明らかにした。本研究成果は、魚鱗癬やアトピー性皮膚炎などの難治性皮膚疾患の新たな診断法や治療薬の開発につながることが期待される。

Hirabayashi, T., Anjo, T., Kaneko, A., Senoo, Y., Shibata, A., Takama, H., Yokoyama, K., Nishito, Y., Ono, T., Taya, C., Muramatsu, K., Fukami, K., Muñoz-Garcia, A., Brash, A.R., Ikeda, K., Arita, M., Akiyama, A., and Murakami, M.
PNPLA1 has a crucial role in skin barrier function by directing acylceramide biosynthesis.
Nat. Commun., 8, 14609, 2017

各プレス発表はこちら
東京都医学総合研究所. 2017. 3. 1.
日本医療開発機構AMED. 2017. 3. 1.
毎日新聞. 2017. 3. 1.
AFPBBニュース. 2017. 3. 1.
共同通信PRワイヤー. 2017. 3. 1.
NatsuCera. 2017. 3. 3.



1 研究の背景
 脂質は皮膚にとって非常に大切な生体成分である。皮膚の最上層(外界に接する部位)を取り囲む表皮角化細胞は角質細胞間脂質と呼ばれる脂質(主成分はセラミド)の層を形成し、体内からの水分の蒸散や外界からの病原体・異物の侵入から我々の体を守っている。これは皮膚バリア機能と呼ばれ、皮膚の最も重要な役割の一つである。特に、セラミドの中でも特殊な構造を持つアシルセラミド(図A)は皮膚のバリア機能に必要不可欠な成分であり、何らかの要因でアシルセラミドの生合成や代謝が乱れると皮膚のバリア機能が損なわれ、難治性皮膚疾患である魚鱗癬やアトピー性皮膚炎などの原因となる。しかしながら、アシルセラミドの生合成に関わる酵素の実体は不明であった。我々は、脂質代謝酵素群の生理的機能に関する研究を進める過程で、ヒト魚鱗癬の原因遺伝子の一つとして報告されている特殊な酵素PNPLA1が長年探し求められていたアシルセラミド合成酵素であることを発見した。

2 研究の概要
 我々は、表皮角化細胞に特異的に発現している機能未知の脂質代謝酵素PNPLA1に着目し、この酵素の遺伝子を人為的に破壊したマウス(PNPLA1欠損マウス)を作出した。PNPLA1を発現できないマウスは正常に生まれまたが、出生直後から著しい皮膚異常を自然発症し、皮膚からの水分の喪失(皮膚バリア機能の指標)により1日以内に死亡した(図B, C)。組織学的に、PNPLA1欠損マウスの皮膚は角質細胞間脂質が失われていた(図D)。このような表現型はマウスの魚鱗癬モデルで典型的に観察され、アシルセラミドの代謝経路に関わる遺伝子の欠損や変異において共通に見出されるものである。これまでにアシルセラミドの前駆体の生合成に関わる酵素はいくつか同定されていたが、アシルセラミドの生合成反応そのもの(セラミドの末端にリノール酸(不飽和脂肪酸の一種)を転移する反応:図A)に関わる酵素の実体は不明であった。
 そこで我々は、PNPLA1が関わる脂質代謝を同定するために、PNPLA1欠損マウスと野生型マウスの間で皮膚の脂質の網羅的比較解析(リピドミクス)を行った。その結果、PNPLA1欠損マウスの皮膚ではアシルセラミドがほぼ完全に消失しており、その代わりに前駆体(ω水酸化セラミド: 図A)が蓄積していた。また、欠損マウスから表皮角化細胞を取り出して試験管内で培養すると、表皮角化細胞に特徴的な遺伝子の発現が著しく損なわれていたが、アシルセラミドを培地に添加すると遺伝子発現が回復した。以上の結果から、PNPLA1はこれまで未同定であったアシルセラミド合成酵素そのものであり、この酵素が欠損するとアシルセラミドの合成低下により表皮角化細胞の恒常性が乱れ、皮膚バリア機能が保てなくなると結論した。
 これまでに我々は、脂質代謝酵素群の生体内における役割を解明してきた(Yamamoto K et al, J Exp Med 2015; Sato H et al, Cell Metab 2014; Taketomi Y et al, Nat Immunol 2013; Miki Y et al, J Exp Med 2013; Sato H et al,J Clin Invest 2010など)。本研究は、皮膚に特異的に発現している脂質代謝酵素PNPLA1の機能を初めて解明したと同時に、この酵素が長年皮膚の研究領域で探し求められていたアシルセラミド合成酵素であることを証明した初めての研究成果である。本発見は、皮膚における脂質の役割に関して新しい学術的理解を与えるとともに、皮膚バリアの破綻に起因する魚鱗癬やアトピー性皮膚炎などの難治性皮膚疾患に対する新しい診断法・治療法を提唱するものである。

3 今後の展望
 皮膚におけるPNPLA1やその産物であるアシルセラミドの量は、難治性皮膚疾患の診断のための新規バイオマーカーとなる可能性がある。また、PNPLA1の発現量や機能を向上させる薬物は、難治性皮膚疾患の新規予防・治療法の開発につながることが期待できる。


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【参考図】PNPLA1の皮膚バリア機能における役割
(A) アシルセラミド代謝経路の全容。各反応における代謝物の構造と関連する酵素(斜体)を示す。PNPLA1はω水酸化セラミドの末端水酸基にリノール酸を転移してアシルセラミド(EOS)に変換する。EOSはさらに代謝されて細胞外に放出され、最終的に角質細胞間脂質の主成分となるとともに、その一部は角質細胞と共有結合してCLE(cornified lipid envelope: 角質細胞表面脂質)を形成する。これらの特殊な脂質構造が皮膚角質バリアに不可欠である。
(B) PNPLA1ホモ欠損(-/-)と野生型(+/+)の新生児マウスをトルイジンブルー染色液に浸すと、欠損マウスは皮膚バリアの喪失のため色素が体内に浸透して青く染まる。
(C) PNPLA1ホモ欠損(-/-)は野生型(+/+)やヘテロ欠損(+/-)の新生児マウスと比べ、皮膚バリアの喪失のため経皮水分蒸散量が著しく増加する。
(D) 皮膚の組織像。野生型(+/+)では角質細胞間脂質の層(矢印)が見られるが、ホモ欠損(-/-)ではこれが消失する。

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